CHROへのアドバイス: 新たなポジションへの オンボーディングプラン の設計

Career TransitionsLeadershipHuman ResourcesDevelopment and Transition
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10月 02, 2020
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エグゼクティブサマリー
新たに就任するCHRO への最も適切なアドバイスを見出すこと、そして、各々が自身の転換期を振り返った時に何をやり直したいと思うのかについて理解することです。
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最高人事責任者(CHRO)には、過去に成功を収めた人が就任します。過去の実績がC-Suite の職責への道を切り拓いたのです。しかし、過去の成功は、それがどれほど重大なものであったとしても、新たに担う役割への移行を成功裏に導くものではありません。これまでに上手くいったことが、更に高次の経営幹部においても成功を同じようにもたらすとは限りません。

ラッセル・レイノルズ・アソシエイツは、世界中の多様な環境下でCHRO の役割を担う21 名にインタビューを実施しました。その時点で、それぞれ9~18 カ月間CHRO のポジションに就いています。インタビューの目的は、新たに就任するCHRO への最も適切なアドバイスを見出すこと、そして、各々が自身の転換期を振り返った時に何をやり直したいと思うのかについて理解することです。

スタートラインに立 つ前に

新たな職責に就任する前に、ビジネスのドライバーが何かについて理解を深める必要があると、リーダーたちは指摘しています。就任初日を迎える時点で、新しい会社の業界やオペレーティングモデル、戦略に関する概要を理解しているだけでは不十分です。面接の過程やその後のリサーチ、関係者との対話等を通じて、これらについての学びを深めておきます。

あるCHRO は、「少なくとも着任前、もしくは着任後2 週間以内には準備を済ませてください。財務情報や代替指標、株主資料、戦略文書を徹底的に読み込んでください。目的は、なるべく早くそのビジネスを理解することです」と述べています。ただし、過去のデータを調べるだけでは十分とは言えません。関係者との対話を通じて学びを深めます。対話の場では、「人事についてではなく、ビジネスについて話すこと」に意識を向けてください。別のCHRO は、新たなリーダーに求められるのは、「周辺情報を掴むこと。つまり、ビジネス、取締役会、リーダーシップの変遷だけでなく、インフラやテクノロジーについても理解を深めること」であるとの見解を示しています。また、さらに別のCHRO は、「ビジネスにおいて鍵となるものが何かを見極めてください。利益がどのように生み出されているのか、その辺りの感度はどうなのかを把握してください」と指摘しています。

こうした探求を通じて、CHRO が何を変えなければならないか、何をそのまま残すべきかについて見極めていきます。「レガシー、つまり、何を維持しようとしているのか、そして、ビジネスと人材の見地からそれをどう実現するかを理解します」。「戦略的に、何かを破壊する必要があります。自身のチームで影響力を発揮し、エグゼクティブ・リーダーシップ・チーム(ELT)に関するギャップを速やかに見つけてください」。そして、特に重要なのは、「緊急かつ重要なものと戦略的なもののバランスを取ること」です。

自身のオンボーディングプランを作成できるのは自分自身だけ

前職でオンボーディングの専門家の1 人であったCHRO は、現在の職場のスタッフに好印象をもたらす手段の1 つとして、ELT と組織全体に自分自身が溶け込むための計画を立てることを挙げています。あるHR リーダーは、「そのポジションを引き受けた日に始まるオンボーディングの責任を自分自身が持つ必要がある」と断言しています。

新たな組織でカルチャーの変革を推進する力となることもできるでしょう。まず、自己紹介すると同時に、組織を評価することから始めます。今回インタビューを行ったリーダーたちは、このプロセスが自分自身のマインドセットから始まるという点を強調しています。「苦労して学ぶことを覚悟してください」と指摘するCHRO がいる他、「これを1 年間の学習ラボと考えること」を勧める人もいます。「これまでの知識がブレーキとならないよう、かなり気を付ける必要があります」

なるべく迅速に物事を進めたいのは山々ですが、自分自身とスタッフの双方にとって忍耐強さも必要です。2 人のリーダーが自身の経験を振り返り、1 人は、「もっと気長に考えて、成果を上げることにそれほどのプレッシャーを感じないよう、あの頃の自分に言いたい」と述べ、もう1 人は、「もっと辛抱強くなると、もっとCEO を信頼できるようになると思う」と指摘しています。

最初に信頼関係を構築する

ビジネスに対して一定の洞察を持ち、学習と忍耐についての意識を深めたら、次に自身のオンボーディングプランで最も重要なのは、関係の構築です。あるCHRO は、「関係構築と人の話を聞くことに集中してください。そして、自分の考えが正しいと思い込まないでください」と述べています。また、ほぼ全てのリーダーたちが、就任1 年目にもっと他者と繋がっておくべきだったとの見解を示しており、新たにCHRO に着任するリーダーには自分たちよりも上手くするよう求めています。「意識的に関係構築を行ってください。時間やセッティング、その頻度は重要です」との指摘があります。また、「 マネジャーとの関係にもっと注力すべきでした」との声が聞かれる他、別のリーダーは、「早い段階で自分のスタッフやCEO ともっと時間を費やすことに努力する必要があると思う」と述べています。

CEO との信頼関係の構築は、特に重要です。ほとんどのCHRO は、新たにチームに加わると、CEO の関心を引くことに多くの時間を費やすため、ELT の他のメンバーに関わる時間を十分に取れなくなります。結果として、組織についての重要な情報を実際に握っている現場レベルのリーダーたちと十分な時間を過ごしていないのです。

問題をさらに複雑にしているのが、CEO の在任期間です。何年も現職に留まるCEO もいるでしょう。一方で、CHRO が着任する時期に新たに就任してくるCEO もいるでしょう。いずれのケースでも、CEO との関係についてのアドバイスは、やはり、即座に関係構築するというものです。「もっとCEO に接触しておくべきだったと思います。そうすれば、もっと早くに関係性を強化できたでしょうし、チームとして取り組んでいたプロジェクトを早く進められたでしょう」

同時に、自身の価値観、特に初めてCHRO を務める人物としての価値観に注目する必要があります。「CEO がどういう人かを知ることに時間とエネルギーを費やす一方で、 そのCEO に対して自分の主張を貫いてください。説得力を持つことが必要です」。また、別のリーダーは次のように述べています。「CHRO はCEO の言いなりというのが、一般的な意見だと思います。そう思われると、他の幹部チームに信頼されない訳ですから、上手くいくはずがありません。それで、私が何をしたかというと、大っぴらに明確にCEOとは反対の立場を取ったのです。不適切な形でではなく、私が自分自身の意志に従って行動するということを分かってもらえるようにです」

CEO との関係構築に速やかに取り組む必要があると同時に、自分自身にも意志があり、CEO とは別であることも示さなければなりません。

注意を払う:一語一句が意味を持つ

経験値の高いリーダーたちは迅速に評価を行うことができますが、組織と人材についての理解を深めるまで、評価結果の内容を自身の胸の内に留めておくのが賢明でしょう。意識的に本心を隠したと思っている者でさえ、もっと外に出さないようにできたはずだと感じています。「初めのうちは自分の意見を言いませんでしたが、もっとそうすべきでした」との意見があります。

「なるべく言わないようにしていましたが、人材について私が言ったことの一部が決めつけだと受け取られてしまいました」

このリーダーは、初めからやり直せるとしたら、「さらに言わないようにするでしょう」と述べていました。口にした意見が一方的な決めつけとの印象を与えないようにするのは困難です。新任リーダーとして、単に自分自身の専門知識を示すためではなく、ビジネスを成長させるために自身の行動を判断してください。


新たな職場環境下における信頼関係の構築

インタビューを行ったリーダーの1 人は、現場にあまり足を運ばなかったことを後悔しており、「 オーストラリアまでは足を延ばせませんでした。うちの会社では2 番目に大きい国なのにです。もっと早くに行っておくべきでした」と述べています。また、別のリーダーも、「前よりもっと出張したいです。例えば、1 月にアジアに行くはずだったのですが、キャンセルせざるを得ませんでした」と話しています。ここから読み取れるのは、安心感と信頼感を構築するために、早期かつ頻繁に足を運ぶ必要があるということです。

出張が不可能であれば、オンラインでのコミュニケーションを推奨します。2 人のリーダーは、2020 年に普遍化した新たなオンラインプラットフォームの力に言及しており、「テクノロジーが関係構築にマイナスに影響するという言い訳はしないでください。より効果的ですらあります」と述べています。また、「オンラインのコミュニケーションのことを、対面コミュニケーションができない場合に仕方なく使用する質の劣るものと捉えるのは間違いです。この2 つは別物です。私が入手した広範な人たちからのフィードバックによると、何千人もの人たちとオンラインで実施しているライブイベントは実際に好まれています。おかしな話、こちらの方がはるかに親密感があるのです」との意見もあります。

人材には果敢に対応

対話の機会は人材を評価し、埋めなければならないギャップを見極めるチャンスです。ビジネスの成功に何が必要かを判断しようとすれば、ビジネスのドライバーだけでなく、持続的に前進していくために必要な人材を新たな角度から見るようになります。


インタビューをしたCHRO は、人事以外についても耳を傾ける必要があると繰り返し語っています。必要な変化に手を貸すことを厭わない人材を見つけ出したいのであれば、組織の中にアンテナを広げてください。

一方で、特定の個人が会社に害を及ぼしている場合には、躊躇せずに正してください。良識に基づいた判断だと受け止められるでしょう。あるリーダーは、「振り返って考えれば簡単なことです。チームに有益というより、むしろ有害だった人物を外せば良かったのです」と述懐し、別のリーダーも、「長い期間、我慢し過ぎました」と述べています。

優先順位付けがすべて

何をする必要があるのでしょうか?ビジネスを明確に理解し、オープンなマインドセットを持って着任したのであれば、関係を構築するという当初のプランを通じて実際の強みとニーズは明らかになったでしょう。ただ同時に、大量のデータや情報も入手しているはずです。よって、オンボーディング後に続く数カ月の間には、優先順位付けが求められます。あるCHRO は、「重要かつ主要な優先事項に極力集中して、不要な情報に飲み込まれない」よう、他のCHRO に呼びかけています。また別のCHRO は、「優先事項と任務を理解して列挙すること。主要なステークホルダーにとっての成功が何かを知ること」を推奨しています。さらに、「優先事項の上位3 つに注力することが重要。何を成し遂げたいのか、進捗をどう測定するかを考えてください」と語るCHRO もいます。

CHROからの助言

CHROがこれまでの経験を基に提示しているのは、新たにCHROとして就任する際の戦略です。中には、既にこれらの一部をうまく取り組んでいる人もいるでしょう。ただ、自分自身の一挙一動が成功に繋がることを忘れないでください。

01. まず、新たなポジションに就任する際の計画は、通常とは全く異なる種類の仕事と捉えてください。映画の製作者が古いストーリー展開を再利用できないように、この移行時の計画も前回とは異なるものになるでしょう。

02. 新たなポジションの打診を最初に受けた時から準備を開始してください。リサーチと関係者との対話の両面を通じて、ビジネスへの理解を深めます。対話の際は、リーダーの経歴、ビジネスが成功している理由、維持する必要のあるもの、今後生じ得る変化に着目してください。

03. オンボーディングの計画を用意したうえで着任日を迎えてください。CEO、取締役会、他の主要なステークホルダーとこの計画について事前に話し合いをしてください。その際、ビジネスについての洞察を踏まえて、重点を置くべき分野を理解していることを明確に示してください。

04. 最初の数カ月間では、信頼関係の構築に注力します。CEOだけでなく、C-Suiteクラスの経営幹部、そして、時間の許す限り組織内の多くの層へと幅を広げてください。また、可能な限り多くのオフィス、現場、国に足を運んでください。それが不可能な場合は、ビデオ会議等を活用して効果的な交流を実現してください。自身のビジョンを信じてもらうためには、顔を合わせたコミュニケーションが必要です。

05. 関係を構築していく中で能力を評価します。自身の分析を基にして、スター人材、業績不振者、後任者を常に見極めるようにしてください。また、必要とされる人材とギャップを見出す仕組みを持つようにしてください。一方、明らかに好ましくない行為があれば、正すことを躊躇しないでください。現職が長すぎるリーダーを入れ替えることは、こうした姿勢を示すものとなります。

06. 最後に、最初の􏚲年間は、積極的に優先順位付けを行ってください。これまでに実施してきた準備、関係者との信頼関係の構築、及び評価を通じて、自分自身とそのチームがすぐに対応できる以上の課題を浮き彫りにできるはずです。これらに優先順位付けをすることで、将来に向けてビジネスに必要とされることをCEOと取締役会に明確に示すことができるでしょう。